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昇降機の豆知識
安全衛生の会議や研修スライドで「1対29対300」のピラミッド図を出しながら説明したとき、経営陣や現場のベテランからこんな突っ込みを受けて答えに詰まってしまった経験はありませんか。
「その比率って、本当にウチの現場にもそのまま当てはまるの?」
「1件の重大事故って、具体的にどこからが重大事故なんだ?」
「そもそも1930年代のアメリカの古いデータだろ? 今でも通用するの?」
そう聞かれて、とっさにうまく返せなかったとしても無理はありません。
社内の安全資料では「1件の重大事故の裏に300件のヒヤリ・ハットがある」というキャッチコピーばかりが広まっていますが、実は厚生労働省の公式な用語集を開くと、この数字は「同じ人間が起こした330件の災害」の内訳として書かれているのです。
原著を丁寧に検証した論文を追っていくと、版を重ねる過程で前提条件の言い回しが変わっており、決して「どんな職場でもこの比率で事故が起きる」という固定の計算式ではありません。
しかし、だからといって「昔の古い理論だから現場の役に立たない」と切り捨ててしまうのも間違いです。
この記事では、公的資料やManuele(2011)が引用する原著の記述をもとに、3つの数字が本来何を数えたものだったのかをきっちり整理します。
そのうえで、日本と米国の実測データから現場でどこまで参考にできるのかを検証し、検索してもなかなかヒットしない昇降機まわりのヒヤリ・ハット事例や、集めた声をリスクアセスメント・労働安全衛生法上の自主検査へどう落とし込むかまで、安全担当者の目線で分かりやすく解説します。
目次
ハインリッヒの法則とは、「1件の重い災害の背後には、29件の軽傷と、300件のケガに至らなかった事故が隠れている」という有名な経験則です。
米国の損害保険会社で安全技師を務めていたH.W.ハインリッヒが1931年の著書で発表したもので、日本では「1:29:300の法則」や「安全ピラミッド」といった呼び名ですっかりおなじみですよね。
この法則について、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の用語集では次のように解説されています。
「アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。『同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。』というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。」
(厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「ハインリッヒの法則」)
社内で安全の説明をするとき、ぜひ押さえておきたいのが、一般的な解説では省略されがちな「括弧の中の2つの条件」です。
1つ目は、「同じ人間が起こした330件の災害のうち」という点です。
工場全体や会社全体で起きた事故をまるごと足し算した数字ではありません。
2つ目は、「(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)」という但し書きです。
ピラミッドの頂点にある「1」は、命に関わるような大事故だけに限定されたものではないのです。
社内でこの法則を語るときは、まずこの2つの前提から話し始めると、「現場の実態と合っていない」といった無用な反発を受けずにすみます。
なお、土台になった分析は1920年代後半のものです。
ここから先で触れる原典の記述は、いずれも当時のデータを詳しく検証した米国の論文(Manuele, 2011)が原著から引用した箇所の孫引きです。
ピラミッドの「1」「29」「300」という3つの数字は、起きてしまった事故を「ケガの有無と重さ」で3つに切り分けて数えた集計区分です。
原著の記述を検証した論文(Manuele, 2011)を紐解くと、私たちが何気なく思い込んでいる通説よりも、ずっと広い意味で定義されていたことが分かります。
とくに「1=死亡・重傷」「300=ヒヤリとした主観的な体験」と受け取っていると、本来の意図からズレてしまいます。
ピラミッドの頂点にある「1」は、死亡や手足の切断といった極めて重篤な事故だけを指すわけではありません。
マニュエル氏が原著第4版から引用した内容によると、ハインリッヒの言う major injury(重傷)とは、「保険会社または州の労災補償当局に報告されたすべての事案」のことでした。
マニュエル氏はここから、現場の絆創膏などの応急手当では済まず、医師の治療が必要になって公式に報告されたケガは、すべてこの「1(major injury)」に含まれると結論づけています。
これを単純に「1件の重大事故」と言い換えてしまうと、Manuele(2011)が引用する原著の定義よりもかなり狭い意味になってしまう点に注意が必要です。
中段の「29」は、現場の応急手当だけで済むような軽いケガを指します。
マニュエル(2011)の引用によれば、ハインリッヒは minor injury を「かすり傷・打撲・裂傷といった、通常は応急手当事案(first-aid case)と呼ばれるもの」と定義していました。
これは厚生労働省の用語集にある「応急手当だけですむかすり傷」という表現とぴったり一致します。
ちなみに、「なぜキリのいい30ではなく29なのか?」と現場から聞かれることがありますが、そこに深遠な理論的理由はありません。
1920年代後半の記録をそのまま集計したら、たまたまこの比率になったという結果論にすぎないからです。
一番下の「300」は、実際に起きた事故のなかで「たまたまケガ人が出なかったもの」を指します。
マニュエル(2011)の引用によれば、ハインリッヒの no-injury accident の定義は、「人または物体・光線・物質の移動を伴う計画外の出来事で、人身傷害または物的損害を引き起こす可能性を持つもの」でした。
つまり、足を滑らせた、つまずいて転んだ、荷物が棚から落ちてきたなど、客観的な事実として物理的な出来事が起きたけれどケガには至らなかった状態のことです。
「なんとなく危ない気がした」という単なる主観的な体験とは、明確に区別されています。
現場からヒヤリ・ハット報告を集めるとき、この違いを知っていると非常に役立ちます。
「危ないと感じたこと」を集めようとすると作業者の感覚に左右されてしまいますが、「実際に起きた物理的な出来事」を拾うと決めれば、書く側も迷わずに済みます。
さらに、この300の下にある層については、資料によって少し数字に揺れがあります。
厚生労働省の用語集が「300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態がある」としているのに対し、マニュエル氏が原著第4版から引用した記述には「300件の危機一髪のうちの1件が起きる前に、500〜1,000件以上の不安全行動または機械的危険への暴露が存在した」と書かれています。
数える単位も数字も違うため、無理にどちらか一方へ統一しないほうが無難です。
また、データのもとになった「母数」にもよくある誤解が潜んでいます。
マニュエル(2011)が引用する原著初版では「12,000件の保険記録と63,000件の事業主記録」が分析対象として登場しますが、実はこれ、事故の原因(後述する88-10-2の割合)を分析したときの母数なのです。
肝心の1:29:300の頻度については、第4版で「無傷害事故の頻度は5,000件超の事例の研究によって決定した」と書き直されています。
社内資料を作るときは、この2つを混同しないように気をつけてください。
出典: ここまでに引用した原著(初版・第4版)の記述は、すべて Manuele, F.A. “Reviewing Heinrich: Dislodging Two Myths From the Practice of Safety”, Professional Safety 56(10), 2011が原著から引用した箇所の孫引きです。用語集の記述は 厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「ハインリッヒの法則」によります。
現場で事故が起きたとき、その原因を整理する言葉として「不安全行動」と「不安全状態」がよく使われます。
ざっくり言えば、不安全行動は「人の行動側の問題」、不安全状態は「モノや環境側の欠陥」を指します。
厚生労働省は不安全行動を「労働者本人または関係者の安全を阻害する可能性のある行動を意図的に行う行為」と定義しており、うっかり手元が狂ったような意図しない行動は「ヒューマンエラー」として切り分けています。
そのうえで安全担当者として絶対に知っておくべきなのは、厚生労働省が「不安全行動によって発生する労働災害を、労働者の心構え、意識だけで防止することはできません」と明記している点です。
「本人の不注意」「気の緩み」だけで片付けてしまうと、その背景にある管理・監督の甘さや、設備・環境面の欠陥を見落とすことになります。
厚生労働省は、働く人の不安全行動を次の12のパターンに分類しています。
たとえば昇降機の現場で、搬器に体を入れたまま操作ボタンを押してしまう行為は「8. 危険場所への接近」にあたります。
また、荷物専用の設備に「階段を使うのが面倒だから」と人が乗ってしまう運用は「5. 機械・装置等の指定外の使用」に近いでしょう。
単に「気をつけて作業しなさい」と注意するだけでなく、こうして公的な類型に当てはめてみると、現場のルールや教育のどこに穴があったのか、次の一手が考えやすくなります。
一方、モノや作業環境側の欠陥については、次の8つのパターンに整理されています。
たとえば、エレベーターのかごの床と乗り場の床に段差ができているなら「1」、扉が開いたままでも動いてしまうなら「2」、昇降機前の通路に荷物がはみ出して置かれているなら「3」といった具合です。
同じ「ヒヤッとした」という出来事でも、それを人の行動の問題として記録するか、設備の状態として記録するかで、その後の対策は大きく変わってきます。
実際の事故現場では、人の行動と設備の状態、両方が複雑に絡み合っているケースが大半を占めます。
厚生労働省の「労働災害原因要素の分析」では、両方が原因となった災害が94.7%、人の不安全な行動のみが原因だったものはわずか1.7%(合計96.4%)という結果が出ています。
ただし、この数値は平成22年中に発生した製造業の休業4日以上の死傷者を対象に、平均1/4.0の抽出率で選び、抽出率に応じて母集団に復元した数値です。
出典: 厚生労働省「労働災害原因要素の分析(平成22年 製造業)」
厚生労働省自身も「細かい数値の違いにとらわれず、大きな傾向として捉えてください(大数観察に重点を)」と注記しています。
ですから、社内資料に「日本の労災の96.4%は不安全行動が原因だ」と条件を省いて断言してしまうと不正確になります。
「人の行動と設備要因の両方が絡んだ事故がほとんどである」という傾向を読み取るのが正解です。
この「重なり」が何を招くかは、公表されている事例を見ればよく分かります。
厚生労働省の労働災害事例には、荷物専用の小型エレベーターの搬器に人が乗り、扉から身体を乗り出して操作したところ、搬器扉と昇降路側壁に挟まれた災害が記録されています。
原因は、荷物専用の設備に乗って昇降していたこと、リミットスイッチが片側の扉にしか設置されておらず片方の扉を閉じるだけで昇降できたこと、安全教育が実施されていなかったことの3点です。
出典: 厚生労働省 職場のあんぜんサイト 労働災害事例 No.535
人の行動だけを是正しても、設備や作業環境側の要因が残れば、同様のリスクが残る可能性があります。
作業員への指導と同時に、設備の安全装置を見直すことが欠かせません。
ちなみに、マニュエル氏の論文によれば、ハインリッヒ自身は災害の原因割合を「不安全行動88%:不安全な機械的物理的状態10%:不可避2%」と示していました。
しかしマニュエル氏は、この調査が各事故の責任を人か機械のどちらか一方だけに割り当てる設計になっており、両方をカウントした例が1件もなかったと批判しています。
この88-10-2という数字はハインリッヒが示した内訳であって、厚生労働省の見解ではないことは覚えておいてください。
出典: 88-10-2の内訳と、その調査設計への批判は Manuele, F.A., Professional Safety 56(10), 2011の記述によります。厚生労働省の見解ではありません。
工場や倉庫で使われる昇降機(エレベーターやリフト)に関するヒヤリ・ハットは、公的な事例集にも実在します。
ただし件数は多くありません。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」のヒヤリ・ハット事例について、公開451件を編集部が全件確認したところ、昇降機に関係すると判断した事例は4件でした。
以下の4件はいずれも区分①(公開済みの一次資料)で、根拠URLと確認日を付しました。
業種と作業種類は併記しますが、地域・日付・年数・物件名・時刻など特定につながる情報は掲載していません。
事例① 簡易リフトの搬器に身体を入れたまま操作し、頭部を挟まれそうになった(水産食料品製造業/荷降し)
事例② 配膳用リフトの開口部からピット内に転落しそうになった(その他の事業/運搬)
事例③ 荷物用エレベーターの着床段差に台車が引っ掛かり転倒した(製造業/製品の運搬)
事例④ エレベーター前で走り込んできた利用者と接触しそうになった(商業/接客)
公開4事例には、人の操作、設備の安全装置、開口部、段差、乗降口周辺の場面が含まれます。
自社で確認項目を決める際も、人と設備・作業場所の両方を見る材料になります。
なお、荷物用リフトの正しい使い方や安全対策については、荷物用リフトのご使用方法と安全対策についての記事で詳しく整理しています。
1:29:300をそのまま自分の職場の予測値や目標値として使うことは、公的資料からも実証研究からもお勧めできません。
理由は大きく4つあります。
第一に、原著の版によって説明が変わっているからです。
マニュエル氏の整理(Manuele, 2011)によると、初版(1931年)の図表にあった「330件の事故はすべて同一の原因を持つ」という記述は後の版で削除され、第2版(1941年)で「類似の」「同じ種類の」が加わり、第3版(1950年)で「同一の人物に起きた」という限定が追加されました。
第4版(1959年)では、頻度の根拠が「5,000件超の事例の研究」に書き換えられています。
第二に、検証しようにも元の資料が残っていないのです。
マニュエル氏が第5版の共著者に確認したところ、レビューできるのは出版された本に書かれている記述だけでした。
これは決して「捏造だ」と責めているのではなく、「第三者が後から事実確認できる状態ではない」と冷静に理解しておくことが大切だということです。
第三に、現代の大規模なデータで分析しても、同じ比率にはならないからです。
日本の15の製造事業所(データ総数230,744件)を解析した研究では、重大な災害:軽微な災害:ヒヤリハットの比率は、平均して「1:6:2,020」でした(今市重道『安全工学』57(3), 2018)。
1:29:300と比べると、軽微なケガははるかに少なく、ヒヤリハットが圧倒的に多い形です。
ただしこの研究も「新しい絶対的な比率」を作ろうとしたわけではなく、各事業所が自社の安全実績を客観的に評価するための手法として示されています。
米国でも同じような検証が行われています。
米国NIOSHの研究者が、鉱山27,446事業所の13年分(2000〜2012年)のデータを調べた査読論文では、永久障害を伴うケガがあった事業所が翌年に死亡災害を起こす確率は6.63倍でした。
しかし、従業員の労働時間数などの条件をそろえて計算し直すと1.37倍まで縮み、ニアミス(報告対象の無傷害事象)との関連に至っては1.02倍にとどまっています。
出典: Yorio, P.L. & Moore, S.M., Risk Analysis 38(4), 2018
この論文は「確固たる比率が存在するという前提を支持する具体的証拠は欠けている」と述べていますが、一方で、軽微な事象と重大災害のつながりそのものを否定してはいません。
第四に、ハインリッヒ本人でさえ「業種によって差がある」と認めていたからです。
厚生労働省の用語集にも「ハインリッヒは、この比率について、鉄骨の組立と事務員では自ずから異なっているとも言っています」と書かれています。批判的な見方を借りずとも、国が公表している資料を少し読むだけで「どんな職場にも通用する普遍的な比率ではない」と説明できます。
なお、日本の労働災害統計(令和7年・死亡700人/休業4日以上の死傷135,333人。厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」)を無理やり「29」で割り算して、自社の事故件数と比べるような使い方も避けてください。
日本の統計の「死傷」は休業4日以上を指しており、そもそも数えている対象が違います。
「では、この法則はもう現場の役には立たないの?」と思うかもしれません。
しかし、厚生労働省は用語集の最後をこう締めくくっています。
「これらの研究成果で重要なことは、比率の数字ではなく、災害という事象の背景には、危険有害要因が数多くあるということであり、ヒヤリハット等の情報をできるだけ把握し、迅速、的確にその対応策を講ずることが必要であるということです。」 (厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「ハインリッヒの法則」)
比率の数字自体はそのまま当てはめられなくても、「重大事故の裏には無数の危険の芽がある」という着眼点は、今も現場でしっかりと生きています。
社内で説明するときも、この二段構えで伝えると議論が前向きに進むはずです。
報告制度を形骸化させずに続かせる鍵は、「集め方の工夫」と「集めた後の受け皿」の2つです。
「ヒヤリ・ハットを報告しよう!」と朝礼で呼びかけてもなかなか紙が集まらないときは、担当者の熱意や呼びかけ不足を嘆くのではなく、この2つの仕組みを見直してみてください。
集まった情報は、まずリスクアセスメントへつなげます。
設備の異常に関する報告は、その設備に適用される自主検査や点検の項目と照らして確認します。
報告が集まらないとき、現場作業員のやる気や安全意識を疑っても解決しません。
厚生労働省の新潟労働局が公開している導入例には、担当者がハッとするような現場心理が書かれています。
「ヒヤリハットは報告する側にとっても、報告を受ける側にとっても、あまり名誉なことではありません。このため、労働者を責めないという取決めをし、これを実行しないと、制度が長続きしません。」 (厚生労働省 新潟労働局「ヒヤリハット事例・想定ヒヤリ 報告制度の導入について(例)」(PDF))
また、マニュアル通りに作業しなかったという報告に対しても、「手順書に無理があって守ることができないのかもしれません」と現場に寄り添い、ルールの見直しのチャンスだと捉えています。
この資料には、明日からでも実務で使える報告書のフォーマットの工夫が4つ載っています。
なぜ4つに分けるかというと、原因を「人のせい」だけに偏らせないためです。
国も、不安全行動を引き起こす要因として「労働者」「作業」「作業環境」「安全管理」「組織」の5つを挙げています。
もし報告書の記入欄が「あなた自身」のことしか書けない作りになっていたら、出てくる報告もどうしても「私の不注意でした」「今後は気をつけます」という反省文になってしまいますよね。
出典: 不安全行動を引き起こす5つの要因(労働者・作業・作業環境・安全管理・組織)は 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「不安全行動」によります。
せっかく集めたヒヤリ・ハットは、引き出しにしまわずに「リスクアセスメント」の公式な入力情報として活用します。
厚生労働省の指針(基発第0310001号・平成18年3月10日)にも、次のようにしっかり明記されています。
「指針の6(1)の『危険な事象が発生した作業等』の『等』には、労働災害を伴わなかった危険な事象(ヒヤリハット事例)のあった作業(略)が含まれること。」(厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(基発第0310001号・平成18年3月10日))
リスクアセスメントのステップは、危険性又は有害性の特定、リスクの見積り、低減措置の検討、そして実施と記録の4つです。
ここで実務として一番意識したいのが、厚生労働省が示している「対策を検討する順番」です。
ヒヤリ・ハットを集めた後によくやりがちな「朝礼で注意喚起する」「KYT(危険予知訓練)で意識を高める」といった活動は、実はこの5段階のうち4番目の「管理的対策」にすぎません。
まずは法定事項を満たしているか確認し、危険な作業自体をやめられないか、機械のインターロックなど工学的仕組みで止められないかを探る。
そこまで検討してから、ようやくマニュアルや教育などの管理的対策へ進むのが、公的に示されている順序です。
「皆さん、気をつけましょう」という精神論からスタートしていないか、一度振り返ってみるだけでも、対策の質は大きく変わります。
出典: リスクアセスメントの4ステップと対策検討の優先順位(法定事項→本質的対策→工学的対策→管理的対策→個人用保護具)は 厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード「リスクアセスメント」によります。
昇降機の場合なら、「変な音がする」「扉がおかしい」といった報告が上がってきたら、対象の設備に適用される労働安全衛生法上の「自主検査・点検項目」と照らし合わせてみましょう。
【労安法欄】ここは労働安全衛生法(クレーン等安全規則)の話です。義務を負うのは事業者です。
| 何を | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 年次の定期自主検査 | 1年以内ごとに1回(簡易リフトは荷重試験も) | エレベーター 第154条/簡易リフト 第208条 |
| 月例の定期自主検査 | 1月以内ごとに1回。安全装置・ブレーキ・制御装置の異常、ワイヤロープの損傷など | エレベーター 第155条/簡易リフト 第209条 |
| 作業開始前点検 | 簡易リフトを用いる日は、作業開始前にブレーキの機能を点検 | 第210条 |
| 記録の保存 | 自主検査の結果を記録し3年間保存 | エレベーター 第157条/簡易リフト 第211条 |
| 異常時の措置 | 自主検査・点検で異常を認めたときは直ちに補修 | エレベーター 第158条/簡易リフト 第212条 |
| 搭乗の制限 | 簡易リフトの搬器に作業従事者を乗せない(危険のおそれがない措置を講じた修理・点検等を除く) | 第207条 |
出典: クレーン等安全規則(昭和47年労働省令第34号)・e-Gov法令検索
※この表は自主検査・点検を中心にまとめたものです。積載荷重1トン以上のエレベーターは、設置先の事業区分によって特定機械等に該当し、クレーン等安全規則第159条の性能検査が関係します。適用条件や検査制度の違いはエレベーターに必要な点検・検査を種類別で解説で確認できます。
「到着したときに床と段差がある」「異音がする」「扉の閉まりが渋い」といった設備異常の報告は、設備種別ごとに適用される自主検査・点検項目と照合し、該当項目があるかを確認します。
異常と判断されれば、事業者は直ちに補修しなければなりません(設置から使用までの流れについては労働安全衛生法でのエレベーターを設置から使用する際の流れをご覧ください)。
社内で説明をしていると、現場や上司から決まって飛んでくる質問があります。
とくに返答に詰まりやすい3つ(バードの法則との違い・必要な件数・数字の帰属)にお答えします。
A. フランク・E・バード氏が1969年に発表した比率で、ピラミッドが「4段」になっている点が一番の違いです。
厚生労働省の用語集によると、297社の175万件にも及ぶ事故報告を分析し、「1(重傷又は廃失):10(傷害):30(物損のみ):600(傷害も物損もない事故)」という比率を示しました。
ハインリッヒの3段モデルに、「物損のみの事故」という層が新しく加わった形です。
A. 必要件数を示す根拠は確認されていません。
件数そのものを目標にするのではなく、上がってきた危険要因をしっかりと評価し、先ほどお伝えしたリスク低減措置(本質的対策や工学的対策など)へ着実につなげていくことのほうがはるかに重要です。
A. 出所を正しく説明できないのであれば、書かない方が安全です。
この2つのフレーズは、ハインリッヒが示した88:10:2から派生した言い回し(88÷10、88+10)であり、厚生労働省の見解ではありません。
同省の分析で示された96.4%は、平成22年中に発生した製造業の休業4日以上の死傷者を平均1/4.0で抽出し、抽出率に応じて母集団へ復元した値です。
社内のスライドに強い数字を載せるときは、それが「誰の、いつのデータなのか」を確認しておくと、後で説明に詰まらずにすみます。
ハインリッヒの法則について、現場の担当者として押さえておきたいポイントは3つです。
第一に、厚生労働省の用語集では「1対29対300」を、会社全体ではなく「同じ人間が起こした330件の災害」の内訳として説明しています。
「1」は死亡や重傷に限ったものではなく、「300」も気のせいではなく「実際に起きた傷害のない事故」を意味します。
第二に、日本の15製造事業所(230,744件)でも米国の鉱山27,446事業所(13年分)でも同じ比率は再現されておらず、自分の現場に当てはめる数字としては使えません。
第三に、それでもこの法則が持つ「着眼点」は色褪せていません。
重要なのは比率の数字ではなく、災害の背景に危険有害要因が数多くあるという事実のほうです。
次の一歩は、現場から拾い上げた事象をどこへ流すかを決めることです。
労働安全衛生法に基づく自主検査を行うのは事業者で、設備の異常に関する報告は、その設備に適用される点検項目と突き合わせる材料になります。
異音や着床のずれといった予兆の見方はエレベーター故障の原因と対策について解説で整理しています。
昇降機の安全装置や点検の状態で判断に迷うことがあれば、アイニチにお問い合わせください。設備の状況に応じてご案内します。