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昇降機の豆知識

投稿日 2025/12/22
更新日 2025/12/29

サーマルリレーとは?モーターを守る仕組みと作動原因を解説

サーマルリレーとは?モーターを守る仕組みと作動原因を解説

「メンテナンス業者から『サーマルリレーの交換が必要です』と言われたけれど、そもそも何のための部品なの?」
「リフトが動かなくなり、制御盤を見たら『サーマル動作』のランプが点いている。リセットしても大丈夫?」

工場や倉庫で簡易リフトやエレベーターを管理されている方にとって、聞き慣れない専門用語によるトラブル報告は、大きな不安の種ではないでしょうか。

「このまま使い続けても安全なのか」「修理費用はいくらかかるのか」と心配になるのも無理はありません。

実は、この「サーマルリレー」は、昇降機の心臓部である「モーター」を焼き付き故障から守る、非常に重要な安全装置です。

もしこの装置の警告を無視して使い続けたり、適切な処置を怠ったりすると、最悪の場合、モーターが故障し数百万円規模の修理費用が発生する事態にもなりかねません。

この記事では、サーマルリレーの基礎知識から、作動してしまう3つの主な原因、そして安全に復旧させるための正しい対処法までを、昇降機の専門家が分かりやすく解説します。

頻繁にトラブルが起きている場合の「根本的な解決策」もお伝えしますので、ぜひ設備の安全管理にお役立てください。

サーマルリレーとは?モーターを守る「熱動継電器」

サーマルリレーは、正式名称を「熱動継電器(ねつどうけいでんき)」といい、主にモーター(電動機)を使用する設備に組み込まれている保護装置です。

ここでは、その基本的な役割と仕組みについて解説します。

過負荷(オーバーロード)からモーター焼損を防ぐヒューズ役

一言で言えば、サーマルリレーとは「モーターに無理な力がかかった時に、自動的に電気を遮断してモーターが壊れるのを防ぐ装置」です。
家庭の電気でいう「ブレーカー」や「ヒューズ」に近い役割を果たしています。

エレベーターやリフトのモーターは、定員オーバーや機械の不調などで動きが重くなると、普段よりも多くの電気(過電流)を必要とします。
この状態を「過負荷(オーバーロード)」と呼びます。

過負荷の状態が続くと、モーターは異常に発熱し、最終的には内部のコイルが焼き付いて動かなくなってしまいます(これを「焼損」と言います)。

サーマルリレーは、この「危険な電流」を感知すると、スイッチを切ってモーターを強制停止させ、モーターが焼き切れるという最悪の事態を未然に防いでいるのです。

熱(バイメタル)を利用して異常を検知する仕組み

では、どうやって「電流が多い」ことを感知しているのでしょうか?
サーマルリレーの内部には、「バイメタル」と呼ばれる特殊な金属板が入っています。

  • バイメタルの性質
    熱を加えると曲がる性質を持つ金属板。
  • 作動の仕組み
    モーターに過大な電流が流れると、その熱によってバイメタルが温まり、徐々に曲がっていきます。
    一定以上曲がると、スイッチを「パチン」と押し、回路を遮断(トリップ)させます。

このように、「熱」を利用して動くため、「熱動」継電器と呼ばれています。

ブレーカーやショックリレーとの違い

よく似た役割を持つ機器に「配線用遮断器(ブレーカー)」や「ショックリレー」がありますが、それぞれ守備範囲が異なります。

比較項目サーマルリレー配線用遮断器(ブレーカー)ショックリレー
主な役割モーターの保護電線(回路全体)の保護モーターや機械の保護
得意な異常過負荷(じわじわくる熱)短絡(ショート)などの大電流瞬時の過電流や拘束
仕組み熱(アナログ式)熱や磁気電流監視(電子式)
コスト安価普通高価

リフトやエレベーターでは、コストパフォーマンスに優れ、モーターの熱特性(じわじわ熱くなる性質)と相性が良いサーマルリレーが最も一般的に採用されています。

簡易リフト・ダムウェーターにおけるサーマルリレーの重要性

なぜ、工場の簡易リフトや飲食店のダムウェーターには、このサーマルリレーが必要不可欠なのでしょうか。
昇降機ならではの事情を解説します。

なぜ昇降機にサーマルリレーが必要なのか

昇降機は、「重い荷物を上下させる」という、モーターにとって非常に過酷な仕事をしています。
さらに、荷物の重さは毎回異なり、積み方によっては機械に予想外の負荷がかかることもあります。

もしサーマルリレーがなければ、無理な運転を続けた結果、モーターから煙が出たり、最悪の場合は火災に繋がったりする危険性があります。
これを防ぐための最後の砦がサーマルリレーなのです。

過積載や機械トラブルから設備を守る役割

サーマルリレーが作動する(トリップする)ということは、「これ以上動かすと危険です」という機械からのSOSです。

  • 規定重量を超える荷物を積んだ時(過積載)
  • 荷物が昇降路の壁に引っかかって動かなくなった時
  • 長年の使用で機械の動きが悪くなっている時

このような異常が発生した際に、サーマルリレーが瞬時に停止させることで、ワイヤーロープの破断や、カゴの落下といった人命に関わる重大事故を未然に防いでいます。

サーマルリレーが作動(トリップ)する3大原因

「何もしていないのに止まった!」と思うかもしれませんが、サーマルリレーが作動するには必ず理由があります。
現場でよく見られる主な原因は以下の3つです。

原因1:荷物の載せすぎによる「過積載(過負荷)」

最も多い原因がこれです。
最大積載量(〇〇kg)を超えた荷物を載せてボタンを押すと、モーターは重いものを持ち上げようとして大量の電流を消費し、サーマルリレーが作動します。

また、重量オーバーでなくても、荷物が片寄って積まれていると、ガイドレールとの摩擦が大きくなり、モーターに余計な負荷がかかって作動することもあります。

原因2:異物の挟まりや錆びつきによる「拘束」

昇降路(リフトが通る縦穴)の中で、何らかの物理的なトラブルが起きているケースです。

  • 荷崩れ: 荷物が壁に接触し、ブレーキがかかった状態になっている。
  • 異物の噛み込み: ガイドレールにゴミや木片が挟まっている。
  • 機械の固着: ベアリングやガイドローラーが錆びついて動かない。

このように機械が物理的にロック(拘束)されている状態で無理やりモーターを回そうとすると、急激な過電流が流れ、保護装置が作動します。

原因3:モーターの劣化や電源トラブルによる「欠相」

「荷物は載せていないのに止まる」という場合は、電気系統やモーター自体のトラブルが疑われます。

  • 欠相(けっそう)
    モーターに電気を送る3本の線のうち、1本が断線したり接触不良を起こしたりしている状態。残りの線に過大な電流が流れます。
  • 絶縁劣化
    モーター内部のコイルが古くなり、電気が漏れている状態。
  • サーマルリレー自体の誤作動
    長年使用したサーマルリレーが劣化し、正常な電流でもトリップしてしまう場合。

これらは経年劣化による設備の寿命である可能性が高いです。

サーマルリレーが作動した場合の対処法と復旧手順

もし、管理しているエレベーターやリフトが停止し、制御盤の「サーマル」ランプが点灯していた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

絶対にやってはいけない「とりあえずリセット」

一番やってはいけないのが「原因を確認せずに、とりあえずリセットボタンを押して再稼働させる」ことです。

サーマルリレーが作動したということは、必ず「異常」があります。

バイメタルが熱くなっている状態で無理やり復旧させると、モーターにさらなる熱ダメージを与え、トドメを刺して完全に焼き切ってしまう可能性があります。

安全確認と制御盤でのリセット手順

まずは以下の点を目視で確認してください。

  1. 積載量の確認: 荷物を積みすぎていないか?
  2. 庫内の確認: 荷物がはみ出したり、何かに引っかかったりしていないか?
  3. 異音・異臭: 焦げ臭い匂いや、いつもと違う音はしなかったか?

原因が「過積載」や「荷物の引っかかり」であれば、それを取り除いた後、制御盤内のサーマルリレー本体にある「RESET(リセット)」ボタン(青色や赤色のポッチ)を押すことで復旧できます。
(※必ず電源を切ってから操作するか、感電に十分注意してください。不明な場合は業者に依頼してください)

リセットしてもすぐに停止する場合のチェックポイント

リセットして動き出しても、すぐにまた「ガチャッ」と音がして止まってしまう。
あるいは、数日おきに頻繁に作動を繰り返す。

この場合は、重度の故障が発生している可能性が極めて高いです。

絶対に無理に動かそうとせず、直ちに使用を中止し、専門のメンテナンス業者に連絡してください。
これ以上操作を続けると、高額な修理が必要になる故障へと発展します。

要注意!頻繁な作動は制御盤全体のSOSサイン

「リセットすれば動くから」といって、頻繁に作動する状態を放置して使い続けていませんか?
それは非常に危険な行為です。

放置が招くモーター焼損と高額な修理費リスク

サーマルリレーが頻繁に作動するということは、モーターが常に「悲鳴を上げている」状態です。
これを無視して使い続けると、いずれモーターが焼き付き、完全に動かなくなります。

そうなると、数万円の部品交換で済んだはずが、モーター交換(数十万円)や、それに伴う付帯工事が必要になり、修理費用が跳ね上がります。
また、部品取り寄せのために長期間リフトが使えなくなり、業務に多大な影響が出ます。

根本原因はサーマルの誤作動ではなく設備の寿命

「サーマルリレーが壊れているんじゃないか?」と疑う方もいますが、実際にはその他の部品(マグネットスイッチ、モーター、配線など)の劣化が原因であるケースが大半です。

サーマルリレーの作動は、「サーマルが悪い」のではなく、「設備全体が古くなってきて、危険な状態ですよ」という制御盤全体からのSOSサインと捉えるべきです。

【比較】部品交換と制御盤リニューアルの費用対効果

古い設備(設置から20年以上など)の場合、不具合が出るたびに部品をちまちまと交換するよりも、制御盤ごと新しくする「制御リニューアル」の方が、長期的にはコストを抑えられ、安全性も飛躍的に向上します。

比較項目部品交換(対症療法)制御盤リニューアル(根本治療)
費用1回あたりは安いまとまった費用が必要
リスク別の部品が次々と壊れる可能性大(いたちごっこ)主要な電気部品が一新され、故障リスク激減
安全性現状維持(古いまま)最新の安全基準に対応(安全性向上)
部品供給古い部品は入手困難な場合あり最新部品のため供給も安心
おすすめ設置から10年〜15年未満の場合設置から20年以上経過している場合

サーマルリレーに関するよくある質問

最後に、サーマルリレーに関して現場の方からよくいただく質問にお答えします。

サーマルリレーの寿命と交換費用の目安

サーマルリレーの製品寿命は、使用環境にもよりますが、一般的に約10年〜15年程度と言われています。

交換費用の相場は、部品代と技術料を含めて数万円程度ですが、機種や業者の出張費によって異なります。
制御盤の点検と合わせて見積もりを取ることをお勧めします。

設定値(アンペア数)を勝手に変えてもいいか

絶対にやめてください。

サーマルリレーには、作動する電流値を決めるダイヤル(ツマミ)が付いていますが、これはそのモーターの定格電流に合わせて厳密に設定されています。

「すぐ止まるから」といって設定値を勝手に上げると、過負荷になっても作動しなくなり、モーターが焼損して火災の原因になります。

業者の交換提案は受け入れるべきか

点検業者から「サーマルリレーやマグネットスイッチが古くなっているので交換しましょう」と提案された場合、基本的には受け入れることを強く推奨します。

これらの部品は消耗品です。
万が一、故障して「過負荷を検知できない状態」になってしまうと、安全装置としての意味がなくなり、高額なモーター故障を招く恐れがあるからです。

「保険」だと思って早めに交換するのが賢明です。

まとめ

この記事では、サーマルリレーの役割から、作動する原因、そして頻繁に作動する場合の根本的な対策について解説しました。

最後に重要なポイントを振り返ります。

  • サーマルリレーは、過負荷からモーターを守る重要な安全装置である。
  • 作動する原因は、過積載だけでなく、機械の経年劣化や電気トラブルも多い。
  • 作動した際は、必ず原因を取り除いてから復旧させる。「とりあえずリセット」は厳禁。
  • 頻繁に作動する場合は、設備の寿命サイン。部品交換だけでなく「リニューアル」も検討すべき。

サーマルリレーの不具合は、エレベーターやリフトからの「もう限界だよ」という悲鳴かもしれません。
そのサインを見逃さず、適切な処置をすることが、事故を防ぎ、トータルの維持費を抑えることにつながります。

「最近、よくリフトが止まる…」
「古い設備なので、一度プロに見てもらいたい」
「業者の見積もりが適正か相談に乗ってほしい」

もし、昇降機のトラブルでお困りでしたら、ぜひ一度、私たちアイニチ株式会社にご相談ください。
私たちは、簡易リフトやエレベーターのメンテナンス・改修において豊富な実績を持つ専門家集団です。

お客様の設備の状況を正確に診断し、単なる部品交換から制御リニューアルまで、最も費用対効果の高い解決策をご提案いたします。

ご相談・お見積もりは無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。

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